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コラム

ルシアンホールディングスとトウキョウファームのM&Aを利用した詐欺的事件を解説してみる

東洋経済社の連載記事と朝日新聞社の連載記事を読んで、ルシアンホールディングスとトウキョウファームの件は弊社にとっても他人事でなく、業界に所属する当事者として一連の報道を読んで感じたことを代表の個人の意見として述べたいと思います。
当事者はM&A仲介業者のみならず、公的な機関も関わっていたことが大変な驚きでした。
まず、事件の概要をお伝えし、そのうえで私の見解を伝えたいと思います。

事件の概要

中小企業のM&A契約書において、株式譲渡後に売主が保証する金融借入の連帯保証人を外す文言があったにも関わらず、努力義務等の文言になっていたことで悪意のある買手がそれを履行せず、資金だけを抜き取り会社を破産もしくは危機的な状況に追い込んでいるということのようです。
実際のプロセスは個社によって違いがあったでしょうが、大枠としては下記の流れだと推測できます。

M&A仲介業者もしくは公的な機関から買手の紹介を受ける。
     ↓
売手は途中で違和感を覚えても、先行不安だからM&Aを進める判断をし、契約の段階に移る。
     ↓
買手は最初から騙す目的であるため、絶対に連帯保証を変更する気はない。
     ↓
買手は株式譲渡契約書ドラフトをM&A仲介業者を通じて売手に提示する。
(前提条件に連帯保証変更は含めていないと思われる。仮にM&A仲介業者が作成した契約書ドラフトに連帯保証人の変更規定が入っていたとしても、受け入れる気などない。)
     ↓
M&A仲介業者はスルーして売手に提示する。
(仮に、買手に経営者の連帯保証をクロージングの前提条件とする原則論をコメントしても、買手は受け入れないため案件を進めるにはスルーするしかない。)
     ↓
売手が株式譲渡契約書の内容を確認する。
(M&A仲介業者は連帯保証変更を前提条件としない場合のリスクを説明していたかが重要。説明していれば仲介業者としての責任は果たしていたと言える。説明を受けたうえで、その契約内容を受け入れたのであれば売手はリスクを許容したことになる。)
     ↓
連帯保証変更はクロージング後に変更する、または継続する方針でクロージングを迎える。
     ↓
買い手は連帯保証変更を先延ばしにする。
     ↓
お金を抜き取って失踪する。

上記が全体の流れです。
まずもって私は、連帯保証の変更をする気のなかった悪意のある買手の存在そのものが悪だと思いますが、M&A仲介業者の責任を問うのであれば、下記の論点になるでしょう。

①経営者の連帯保証をクロージングの前提条件としなかったのはなぜか。
(原則的にはクロージング時に連帯保証を変更する。会社の支配者が変わるタイミングで、経営リスクは新しい支配者がすべて負う。)
②上記の連帯保証の変更に関する原則論、また原則以外の方法を取る際のリスクを説明していたか。

不幸を防ぐ方法論

M&Aが詐欺集団に悪用されないためには一定の規制が必要となると思いますが、それは業界の成長を妨げるものであってはいけないと思います。ただでさえ30年もデフレ基調だったのだから、経済成長を促進するM&Aを止めるような規制は不要だと考えるからです。

ただ、最低限の方法として、やはり連帯保証人の変更を義務化することはあるべき未来でしょう。
変更しなかった買手、M&A仲介業者、金融機関がそれなりの罰則を受けることになれば、買手による詐欺、M&A仲介業者の自社利益優先の判断、金融機関の非協力的な対応を抑止できるからです。
僭越ながら、このレベルは職業倫理として当然にやってほしいことではあるのですが。。。

以上が、本件の概略と悪意のある買手を排除する方法です。
そのうえで下記より、私が思うことを述べます。

買手に対し思うこと

端的に言って、コンプライアンスを守らないと言う意味で反社会的な人間であり、即刻逮捕され市場から排除されるべき人間です。
このような契約の履行をするつもりがない人間、つまり商業的倫理を欠いている人間は、ビジネス社会にいてはいけない。ビジネスの維持、発展を阻害するからです。

私は人の可能性に投資する社会を創ろうと思っていますが、その前提は法令の遵守であり、また、それは社会や関係者にとって道理にかなうことでもあります。
最初から法の遵守をしない、自分の都合で法令を破っても良いと思う商売人など、ビジネス界は受け入れてはいけないと思います。

M&A仲介業者に思うこと

私的整理や法的整理といった再生手続の方法すら知らない業者なのであれば、即刻市場から退場すべきです。
また、事業規模と比較して借入の重い事業者における連帯保証人の変更は、一定の難易度を伴うから、通常のM&Aの実行には難易度が高いことが分からなかったのでしょうか?

記事を読む限り、明らかに買手に資金力や信用力がなかったと思われますが、どのようなプロセスで実行の判断をしたのかが、いまいち分からない。
一般論として、設立数年以内の企業が企業買収を行うということ自体極めて異例だと思います。
その辺りの判断力が会社として、担当者としてなかったのだろうか。

また、株価が備忘でも借入金額が事業規模と比較し相当に重い状況の事業体を、買手が買収することに違和感を覚えなかったのだろうか。
あらゆるプロセスで違和感を覚える瞬間があったはずです。

朝日新聞の記事によれば、買主との面談にあたって売主が違和感を覚えている様子が描かれています。これが本当だとすれば、業者の判断として破談させるべきであり、とても成約まで結びつけられないと思います。

買手がこの状況下で買収の意欲を見せていたことに、担当者として何の違和感も覚えなかったのであれば、事件で受領した手数料を返金のうえ、速やかに市場から退場するべきです。

1番の被害者は誰か

報道によれば法人を売却した経営者が被害者のような描かれ方をされていますが、私は売主にも責任があると思うし、1番の被害者はあなたたちではないと思います。
1番の被害者は、突然日常を奪われたその企業で汗水垂らして働いていた従業員です。

朝日新聞社の連載記事を読んでいて感じていることは、そもそも事件に巻き込まれている企業に共通することがあるのではないかということです。
それは、ほとんどの企業の業績が著しくなく、借入も事業規模と比較し大きいということ。
連載記事では食品製造、製造業といった様々な被害者の声を読むことができましたが、どれも先行不安という点が共通点だったように感じます。

僭越ながら、代表者の責任は重い。他責などするな。最終的に判断したのはあなた自身です。
なぜなら、業者は業務委託契約か仲介契約にすぎず、意思決定をすることはできないのだから。
都合の良い話などないことなど、ご自身が一番分かっているはずです。

分かりやすいように、今回の被害者とされる企業郡の貸借対照表、損益のイメージと取得条件を下記に記します。
勿論、記事を読んだうえでの想像にはなるので、実態と異なる可能性はお含みおきいただきたいと思います。

■損益・財務状況
・年商規模 数千万円〜数億円
・損益   トントン〜赤字
・現預金  数千万円~数億円
・銀行借入 数億円(※保有する現預金よりも過大なはず)
■取得条件
・株価 1円~数千万円
・連帯保証人の解除

このような条件下で、皆様は当該企業の買収を行い、連帯保証人を引き受けるでしょうか?
私はこのような状況下の企業で通常の株式譲渡が行われたことに対して、違和感を覚えざるを得ません。
なぜなら、損益も著しくなく、事業規模と比較し借入も過大と言わざるをえない状況下では、通常の株式譲渡を模索するより何らかの再生手続を行うことを検討する方が一般的だからです。

現在私は、我が社の全相談の仕入判断を行っていますが、この状況下なら100パーセント私的整理もしくは法的整理を活用する前提の提案を行います。

間違っても、通常の取引での取組ではお受けしない。
真っ当なプロであればこのレベルの話であって、こんな笑い話は聞いたことがない、というのが率直な感想なのです。

だからこそ、甘い言葉に乗ったあなた方の責任は重い。
本来、私的整理や法的整理を活用した再生手続を経てM&Aを行うべきでした。
それにはご自身の財産の開示も求められるから、結局、個人の利益を優先した結果なのではないでしょうか?
その結果、大きなしっぺ返しを食らったというように見えます。

事業者ならば事業の責任、そして行動した結果についての責任を求められることは当然のことであり、より厳しい言い方をすればM&Aを検討するまでの間、どのような経営をしてきたのかを問いたい。
ヒトよりカネの発想で、コスト削減だけが付加価値だと勘違いをし、収益力を向上させることをしなかったのではないか?
その結果、業況が苦しくなり外部環境の大きな変化があった時に市場についていけなくなったのであり、根本的な原因は付加価値を創ることから逃げてきた事業者自身ではないのか、考えるべきだと思う。

繰り返しますが、一番の被害者はあなた方のために働いてきた従業員です。
あなた方は彼らに報いてきたのか?
報いてきたのであれば、違う未来があったはずです。
連載記事を通して当事者のそれぞれの立場を考えたうえで、問題の本質というのは、規制を導入すれば解決するといった類の話ではなく、もっと根本的な話だと私は思います。

当たり前に筋を通す

それは、当事者全員が関係者に筋を通しているのか? その主張が道理にかなっているか?という話です。

売手であれば、業況が悪くて銀行の借入返済が苦しいのであれば、M&Aの検討をする前にまず銀行に相談しリスケや中小企業活性化協議会の支援を仰ぐのが筋道です。
自分だけに都合の良い話などないのが経営だと、私は思います。
M&Aは選択肢の一つではあるものの、自分の事業に起因する借入が重くてM&Aの成功確率が下がるのであれば、それはまずあなた自身が金融機関に対して筋を通すべきです。

金融機関も、数年といった一定の期間リスケ対応をした先について損益改善が見られないのであれば、その時点で速やかに債権カットを伴う私的整理や法的整理に移行できるような体制が必要でしょう。

買手であれば、売手が築いた資産を利用して更なる成長をするために事業投資を行うわけであるから、そこには売手に対してリスペクトが必要だと思います。
連帯保証がついている企業を買収するのであれば、それを自分が負ってでも成長させられるかどうかを考えなければいけないでしょう。
尚、近年”のれんは5年まで”といった買収にあたり制約を設ける買手企業が多いのですが、本来5年で元本を回収することなど事業がgoing concernである以上あり得ません。
私はこのようなデフレマインドを破壊していこうと考えています。

最後に、M&A仲介業者は自社の付加価値とは何か今一度問いかけるべきでしょう。
私は、企業は人間が作る世界に一つだけの芸術品と同じだと思います。
だからこそ、代表者がわがままになるのは理解できることですし、仮にM&Aに携わりたいのであれば人の気持ちに寄り添うことが重要で、顧客の想いに合わせた提案ができなければいけません。
顧客にとって痛みを伴うものかもしれなくても、本当に顧客のためと思うのであれば、媚び諂うことなく、嫌われてでも再生手続きの提案ができるはずです。

結に変えて

様々な新聞を読んで、改めてこの事件はとんでもないことが起きたなと思った一方、仮に弊社のサービスをご利用頂いていたのであれば、売主がこのような事件に巻き込まれる可能性は低かったと感じています。
何故なら、弊社は売主を商品と捉えM&Aの手数料が原則無料であるため、売れない状態では仕入しないからです。

今回のような事案であれば通常の取引を想定せず、まず再生M&Aでの取組の提案を行います。
他社ならとりあえず甘い言葉で買手がいるなどといった提案をされるのかもしれませんが、弊社なら“商品”として取組可能かというハードルを超える必要があり、当該企業郡の状況は弊社にとっては商品に満たない“原料”でしかありません。 したがって、“商品”として仕入するために再生M&Aでの取組が必要、という提案しかできないのです。

また、売主を商品と捉える以上、それを適当に販売することもまたあり得ないことがわかると思います。
自社の商品を適当に説明して販売する営業マンなどいないからです。


今回は巷で噂となっているM&Aに絡んだ詐欺的な事件について解説しました。
ご参考になれば幸いです。